ビロードの口づけ
「なるほど、本物だ。それならなぜ王たる君が、わざわざ住みにくいであろう人の社会に出て働いているんだね?」

「お嬢様をお守りするためです。そしてあなたの信頼を得るためです」


 ジンはクルミの側に来るために、一年以上前から人の社会でボディガードとして働いていた。

 娘の姿を人目から遠ざけ必死に隠そうとしている父は、いずれボディガードを雇うだろうと踏んでいた。
 ボディガートをしていれば、掟に背いた者はその場で自ら粛清できるし、名を上げれば父の目にも止まりやすくなる。

 狙い通り父に雇われたジンは、父の命に忠実に従う事で信頼を得る事になった。


「まんまと君の術中にはまったわけだな。だが君がクルミを指定すればそれで済むはずだ。私に拒否権はない。私の信頼を得る必要はないだろう?」

「あなたとの関係を今日限りで終わりにしたくなかったからです」

「どういう事だ? 何を考えている?」
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