ビロードの口づけ
 両親に対しては丁寧だし、使用人たちに対してもクルミに対するほど横柄ではないように感じる。
 どこかのご令嬢に嫌な目に遭わされたか、よほどクルミが嫌いなのか、どちらかなのだろうと思った。

 ふいにジンがクルミの胸元を見つめてニヤリと笑った。


「あんたは何のサービスだ? そんな薄着にノーブラで、オレを誘っているのか?」
「違います!」


 クルミは咄嗟にカーテンを引っ張って胸を隠した。

 寝る時はいつも、この格好なのだ。
 ジンがいるとは思わず、少し様子を見ようとそのままやって来ただけなのだ。

 月明かりしかない暗がりで、そこまで見えるとは、夜目が利くというのは本当のようだ。

 ジンは朝まで寝室の警護をするという。
 いつ寝るのか尋ねたら、家庭教師が来ている間に寝ているらしい。
 それでその時は席を外していたのだ。

 ジンに改めておやすみの挨拶をして窓を閉めようとした時、庭木がガサリと音を立てた。
< 18 / 201 >

この作品をシェア

pagetop