ビロードの口づけ
 最初はクルミの学習時間に、休憩中のジンに話し相手をしてもらっていたらしい。

 本来なら睡眠に当てるはずの時間なのに、ジンは嫌な顔ひとつ見せずに母の相手をしてくれた。
 その厚意に甘えて何度か話し相手をしてもらううちに、母の方から誘った。
 ジンには愛情が欲しいなら与える事はできないと言われたそうだ。


「ジンは優しい人ね。あなたたちはきっと幸せになるわ。あなたには望む人と一緒になってほしかったの」


 両親は親同士の取り決めで、幼い頃から結婚が決まっていたらしい。
 貴族同士の結婚はどこもそんなものだ。


「お母様は幸せじゃないの?」
「幸せよ」


 言い淀む事なく答える母の笑顔に偽りはない。
 父の話をする時はいつもこの笑顔だった。

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