ビロードの口づけ
 まさかこんな深夜にやって来るとは思わなかった。
 父も母もすでに床についているはずだ。


「お父様とお母様に黙って行くわけにはいかないわ」

「許可なら約束の日に済ませた。領主はいつでもいいと言っていた。あんたはもうオレの妻だ。俺が連れて行くのに問題はない」


 こんな風にいきなり連れて行く事を本当に父が許したかは甚だ疑問だが、自信満々のジンを説得できる気がしない。


「じゃあ、書き置きをさせて下さい。あなたが連れて行った事が分かるように。何も言わずにいなくなったらみんなが心配するでしょう?」


 ジンが渋々了承したので、クルミはベッドのサイドテーブルに書き置きをした。


「着替えるので少し待って下さい」


 窓を閉めようとした腕を掴んで引かれ、クルミは窓枠にもう一方の手をついた。

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