ビロードの口づけ
「そのままでいい」
「だって、外に出るのに……」
「オレの背中に乗せて行く。城の奴らも大半は眠っている。人目にはつかない」


 何をそんなに急いでいるのか分からないが、やはり説得できそうにない。
 クルミは大きくため息をついて、ジンに手を借りながら窓から庭に下りた。

 素足の裏に芝の感触がチクチクする。
 裸足で外に出たのは初めてだ。

 ジンは首からぶら下げていた小さな革袋から何かを取りだし、クルミに差し出した。


「これをあんたにやろう。あんたの香りは強烈だからな。他の奴らが変な気を起こさないように、オレの女だという証だ」


 広げたジンの掌には小指の先ほどの丸い石がついたピアスがひとつ乗っていた。

 丸い石はジンの瞳に似て、琥珀色にも緑色にも見える。
 中心に白い光の筋が入っていた。

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