ビロードの口づけ
鬼畜眼鏡とお嬢様 短編Ver.
連載前に短編で書いたものです。
時間的には「3.獣の社会」と「4.揺れる心」の間になります。
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 左斜め後ろが気になって仕方がない。

 レースのカーテン越しに朝日に照らされた明るいダイニングルームで、私は静かに朝食を摂っていた。

 いつもはひとりだ。
 母は朝が苦手なので、朝食の席にいたことはない。
 けれど今日は、いつも忙しくて滅多に家にもいない父が、珍しく一緒に朝食の席に付いている。

 それがまた、私の緊張に拍車をかけていた。

 親子なのに、顔を合わせることも、会話をすることも滅多にないのだ。

 その父が私の身を守るためにと雇ったのが、左斜め後ろに控えている彼、サエキ・ジン。

 長身で細身の彼は、物腰も柔らかく、ボディガードだと言われなければ想像もつかない。
 黒髪にいつも黒っぽい服装で銀縁のメガネをかけている。
 どちらかと言えば、執事のようだ。

 武器になるようなものは、一切携帯していない。

 そんな風で本当に護衛の役に立つのだろうかと、最初は疑っていた。
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