ビロードの口づけ
 私は慌てて視線を逸らし向き直る。

 父が平然と付け加えた。


「だそうだ。おまえが余計な気を遣う必要はない」
「はい……」


 私は諦めて、食事を続けるしかなかった。




 肩の凝る朝食を終えて部屋に戻る。
 ホッとしたのも束の間、背後で突然声がした。


「あんた、オレがそばにいるのが気に入らないんだな」


 ビクリとして振り返ると、いつの間に入ってきたのか、ジンが腕を組んで入口横の壁にもたれていた。

 私がジンを苦手としている理由はこれだ。
 私と二人きりになると、彼は豹変する。
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