ビロードの口づけ
「離してください」


 またしても私の言葉は無視され、ジンは私を両腕の中に囲い込んだ。


「あんたが気に入らなくても、そばにいる」


 耳元で囁くように言われ、背筋がゾクリとする。
 必死で逃れようともがいてもビクともしない。


「私が気に入らないのはあなたの方でしょう?
 だったらどうして、こんな風に不必要に絡んでくるんですか」

「あんたが嫌がるからに決まってるだろう」


 歪んでいる。

 ジンの楽しそうな表情が、それを裏付けている。

 確かに私は、屋敷からほとんど出たこともない世間知らずかもしれない。
 けれどこの人が歪んでいることくらいは分かる。
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