ビロードの口づけ
 わざわざ嫌がらせをするなど、それほどこの人の気に障ることをした覚えはない。

 彼が歪んでいないのだとしたら、それはもう嫌いというレベルではない。

 それを確かめるために、私は顔を上げて彼を見据えた。
 するとジンは、目が合った途端、ニヤリと笑った。


「あんた、意外と胸大きいな」


 そう言って感触を確かめるように、私の身体を更に引き寄せる。

 絶対、歪んでいる。
 間違いなく歪んでいる。
 そう思いながらも、私は問いかけた。


「私が憎いのですか?」


 メガネの奥でゆっくりと目が細められ、口元に笑みが浮かぶ。
 その冷たい琥珀色の瞳とは裏腹に、まるで慈しむかのように優しく、彼の手が私の頬を撫でた。

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