ビロードの口づけ
「あんたは運がよかったんだ。もっとも極上の女は食われない。めったにいないからな。よほど頭の悪い奴でなければ、一回で終わりにしてしまうのはもったいないだろう?」


 人間の女は思春期を過ぎて女の機能が整うと、獣にしか分からない甘い香りを発するようになるらしい。

 その香りには個体差があり、極上の女は獣を酔わせるほどの強い香りを発しているという。

 獣よけの香水には、この香りを打ち消す効果がある。
 だが極上の女の香りは、香水を持ってしても打ち消す事ができないほど強いのだ。

 獣の血を引くジンが生まれているという事は、ジンの母親は極上の女だったのだろう。

 クルミは自分の手首を鼻にかざして匂いを嗅いでみた。
 別に何も匂わない。

 首を傾げるクルミを見て、ジンがクスクス笑った。


「人間には分からない香りだ。だがオレには分かる。あんたは間違いなく極上の女だ」
「え……」

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