ビロードの口づけ
 図星すぎてクルミは一瞬言葉を飲み込む。
 それでも——。


「知らない事を知りたいと思うのは当然ではないですか?」
「変わったお嬢様だな」


 呆れたようにため息を漏らして、ジンはフッと笑った。
 今まで見た事もないような優しい表情に、クルミは少しとまどう。


「オレもずっと森で暮らしていたのは子どもの頃だけだ。最近は町にいる事が多い」


 教えてくれる気になったのか、ジンが語り始めた。
 クルミはおずおずと尋ねる。


「森ではお母様と一緒に?」
「母親は物心ついた頃にはいなかった。みんなそうだ。獣に家族や同族に対する情はない。あるのは唯一無二の掟、弱肉強食。一番強い奴が頂点に立つ。そいつが獣王だ」

< 26 / 201 >

この作品をシェア

pagetop