ビロードの口づけ
「獣社会って女は肩身が狭いんですね」
「そうでもないさ。女には伴侶を選ぶ権利がある。男にはないんだ。そして選んだ伴侶が死なない限り、一生養ってもらえる。男は力によって実入りが違うから強い男に女は群がる。女に選ばれなかった男は寂しいぞ。そんなところは動物と同じだな」


 生態や社会制度は動物とよく似ている獣だが、人型になれる者は案外文化的な生活をしているらしい。

 森の中に家を建て、人間と変わらない生活をしている。
 獣王に至っては大きな城に住んでいて、たくさんの女たちや召使いを従えている。

 人型になれる者はそこで働いたり、人間の町に出て働いたりする。
 そして労働により得られた対価で食料などを手に入れる。

 動物のように森で狩りをするより豊かな生活ができる。
 そのため能力の差が生活の差になるのだ。


「獣が町で普通に働いているんですか?!」
「人型になれる者は知能も高い。言われなければ分からないだろう」


 めったに姿を現さないと思っていた獣が、実はあちこちに人知れず紛れ込んでいた事に驚いた。
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