ビロードの口づけ
 もう簡単には泣いてやらないと決意した時、いきなり肩を掴まれた。
 飛び上がりそうなほど驚いて顔を上げると、鏡の中からジンが不機嫌そうな顔で睨んでいた。


「何をぼんやりしている。外でポンタが困っていたぞ」


 クルミはキョロキョロとあたりを見回しながら立ち上がった。
 いつの間にかモモカはいなくなっている。

 モモカが出て行った事にも気付かずジンの事を考えていたのかと思うと恥ずかしい。
 その張本人に飛び上がるほど驚かされたのが悔しくて、クルミは少しムッとしたまま声を荒げた。


「勝手に入って来ないでください!」
「あんたがボサッとしてて気付かなかっただけだろう。ポンタが何度ノックして声をかけても返事がないって言うからオレが様子を見に来たんだ」
「ポンタ?」


 誰の事だろうと入り口に目を向けると、扉の隙間から使用人の少年コウが心配そうに顔を覗かせていた。
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