ビロードの口づけ
 飽きることなくクルミの顔を舐め続ける。

 その内ご機嫌な猫のように、グルグルとのどを鳴らし始めた。
 口を押さえていた弾力のある肉球は、ようやく丸みを帯びてきたばかりの硬い胸の上に、いつの間にか移動していた。
 二つの太い前足は、そこで足踏みをするように交互に胸を押さえつける。

 口を開かせようというつもりなのか、獣の舌は唇の隙間もしつこく舐めた。
 さすがに口の中まで得体の知れない獣に舐められたくはないので、クルミは歯を食いしばり唇を固く閉じた。

 ザラつく舌で何度も舐められ、頬や唇が少しヒリヒリし始めた頃、獣は突然舐めるのをやめた。
 身体の動きも、のどの音もピタリと止まっている。

 薄く目を開いて見ると、顔を上げ耳を立てて部屋の扉の方を見つめている。
 とがった耳がピクリと震え、先端のフサ毛が揺れた。

 クルミも聞き耳を立てる。
 部屋の外に複数の足音が近づいてくるのが聞こえた。
 物音を不審に思った誰かが、こちらにやって来るようだ。

 クルミが気付いた時には、獣の方が先に察知していたらしく、四つ足でクルミをまたぐようにして立ち上がっていた。
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