ビロードの口づけ
 兄が訝しげに眉を寄せてライに尋ねる。


「知り合いか?」
「以前の職場で一緒だった事があります」


 表情を崩す事なく、ライは再びジンに声をかけた。


「頑張ってるみたいだね。ザキも頑張ってるらしいよ」
「そうか」


 ジンは無表情のまま短く返答する。
 知り合いというにはあまりにそっけないやり取りに、クルミは少し困惑する。

 兄は気まずそうに、ジンに言葉をかけた。


「クルミを頼むよ」
「かしこまりました」


 頭を下げるジンとクルミに見送られ、兄はライと共に屋敷を後にした。
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