ビロードの口づけ
 扉が閉まり頭を上げたジンは、いつものように豹変する。


「そろそろ家庭教師が来る。部屋に戻るぞ」


 ジンに急かされるようにしてクルミは部屋に戻った。

 家庭教師が来るまでの間はいつも、ジンと一緒に部屋にいる。
 時々意地悪をしたりするが、大概彼は部屋の隅に黙って立っている。

 守られているというよりは、監視されているようで気が休まらないのだ。

 部屋に入って扉を閉めた途端、ジンはクルミの両肩を掴んで壁に押しつけた。


「な、何?」


 不意を突かれて軽く混乱したクルミはジンを見上げた。
 いつにも増して冷たい瞳が、怒りを孕んでクルミを射すくめる。
 肩を掴む手に力が入った。


「あいつが言った事は本当なのか?」

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