ビロードの口づけ
 怒ったような強い口調に萎縮しながらも、わけが分からずクルミは首を傾げる。


「何の事ですか?」
「とぼけるな。答えろ!」


 ジンが右手を振り上げた。
 叩かれると思ったクルミは、咄嗟に目を閉じて首をすくめる。
 風圧が頬をかすめ、鋭い爪が胸元を通過し、ブラウスを引き裂いた。


「きゃあっ!」


 露わになった胸を隠すため身体を反転させようとしたが、再び肩を掴まれ押さえつけられた。

 胸の真ん中にうっすらと爪痕がついている。
 傷は熱を持って次第にズキズキと痛み始めた。

 クルミはジンを見上げ、泣きそうな表情で訴えた。


「本当に何の事か分かりません」
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