ビロードの口づけ
「じっとしてろ」


 一瞬顔を上げたジンは短く言い捨て、すぐに傷を舐め始めた。
 胸を掴んだ手も握ったり緩めたりを繰り返す。

 辱めを受けているのだと思うと、無力な自分がたまらなく悔しい。
 けれど未知の感覚に身体の中心が次第に熱くなっていく。

 もう簡単に泣いてやらないと決めたばかりなのに、目には涙が滲んできた。

 少しして感覚が麻痺してきたのか傷の痛みが消えてきた頃、ジンが顔を上げた。

 クルミをそっと抱きしめ、まぶたに口づける。
 クルミはジンを思い切り突き放し、睨み付けた。

 その時、扉がノックされ、モモカの声が聞こえた。


「クルミ様、家庭教師(せんせい)がお見えになりました」
「あ、ちょっと待って」


 慌てて返事をしながら裂けたブラウスの胸元をかき合わせる。
 そして気付いた。

 疼くほどの傷が跡形もなく消えている。

 ジンに視線を向けると、彼はニヤリと笑った。


「傷は治しておいた。オレの舌には治癒能力がある」


 礼なんか言わない。
 傷をつけたのはジンなのだから。

 クルミはムスッとして頬を膨らませた。

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