ビロードの口づけ
「直接味わってみたくなった」


 ジンの指を濡らしていた物の出所は想像がつく。
 直接という事は……。

 そんなの恥ずかしくて死んでしまう!
 知らず知らずに涙があふれ、クルミは子どものように声を上げて泣き始めた。

 ジンはクルミの身体を抱き起こし、いつものようにまぶたや頬に口づけ優しく涙をぬぐう。
 泣きじゃくるクルミの髪を撫でながら、耳元で囁いた。


「今度の楽しみに取っておこう。もうすぐ夕食の時間だ」


 耳たぶに口づけ甘噛みされて、身体がピクリと跳ねる。
 ジンはクスクス笑いながら立ち上がり、サイドテーブルに置いていた眼鏡をかけて部屋の隅に戻った。

 完全に身も心も弄ばれている。

 クルミは鼻をすすりながら床に落ちた本を拾いページをめくった。
 本に視線を落としながらも頭の中はジンの事で一杯になる。
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