ビロードの口づけ
 ライがうっとりした目でつぶやいた。


「あんな極上の女って初めてだ。味見してみたいなぁ」
「あいつはオレの警護対象だ。ちょっかい出す獣は狩るぞ。この間も一匹始末したしな」
「相変わらず容赦ないね、君は」


 立ち話をしているところへモモカが茶を運んできた。
 二人でソファに移動する。

 ライはモモカに声をかけてアピールしていたが、彼女は取り合わずうまく躱して部屋を出て行った。

 モモカは侍女の中では一番出来がいいとジンは評価している。
 ライの色香ごときには惑わされない。
 だからこそクルミの側仕えになっているのだろう。

 全く相手にされなかったライは少し不満げに茶をすする。
 それを横目にジンも茶を口にしながら切り出した。


「それで話ってのは何だ?」
「あぁ、この間チラッと話したけど、ザキが動いてる。まぁ、動いてるのはあいつだけじゃないけどね」


 極上の女を手に入れるため、今獣たちは人間の街を徘徊している。
 食ったり交わったりするためではない。


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