ビロードの口づけ
「おまえは動かないのか?」
「私は権力に興味ないからね」


 しれっとして答えるライをジンは鼻で笑う。


「よく言う。王が転べば、取って代わる気満々のくせに」
「転べばね。でもそう簡単に転ばないだろう? 今の王は」
「そうだな」


 ライはソファの背にもたれながら大きくため息をついた。


「でも君がクルミ様ほどの上物を押さえてるとなると、他の奴らは分が悪いな」
「オレはそんなレース参加資格がない」

「そうだけど、領内で最高じゃないとダメなんだよ。クルミ様以上の女なんていないだろ」


 そしてライは意味ありげにニヤリと笑った。


「ザキは当てがあるみたいだけどね」
「多分クルミだろう。クルミが五年前に遭った獣はおそらくザキだ」

「なんだ、知ってたんだ。あいつ王に献上する気なんてないよ。最高の女で力を得て粛清される前に獣王戦を挑むつもりだ」

「筋肉脳の考えそうな事だな」


 フッと笑ってライは席を立った。


「話はそれだけ。クルミ様の身辺に気をつけた方がいい。ザキがいずれここに来る」

「おまえに言われるまでもない。あいつを守るのはオレの仕事だ」


 ジンは不敵の笑みを浮かべてライを見つめ返した。

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