ビロードの口づけ
 たとえ知っていてもクルミに告げるわけにはいかないし、コウの立場では二人に意見する事もできないだろう。

 不実な関係だと分かっているはずなのに、クルミを傷つけないようにという配慮なのか、優しいコウは二人を弁護する。


「奥様は旦那様が留守がちで、ずっと寂しい思いをしておいでてした。ジン様もクルミ様を守るために力を必要としているんです」


 獣の血を引くジンは獣同様人間の女と交われば、獣の能力が増大するのだろう。

 それにしたって、どうして母なのかと思う。
 やりきれない思いにクルミは顔を歪めた。
 クルミの心中を察してコウは尚も続けた。


「奥様はクルミ様には遠く及びませんが、強い香りをお持ちです。今領内に獣が多く出没している事はご存じでしょう? その中でも特に危険な奴がクルミ様を狙っているらしいんです。五年前にクルミ様を襲った奴です」


 五年前といえば、あの黒い獣だろうか。
 粛清されたわけではなかったらしい。
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