ビロードの口づけ
 そんな事を考えながら、ふと気付く。
 こんなに詳しい獣の生態は本に書かれていない。


「どうしてコウはそんな事を知っているの?」


 クルミは俯いていた顔を上げ、コウを真っ直ぐ見つめる。
 彼は弱々しく微笑んだ。


「それをオレの口から話す事はできません。察してください」


 ジンに聞いたわけではなさそうだ。
 聞いたのなら聞いたと言う事に何も問題はないはずだ。
 先日の事を思い出し、クルミは結論に達した。

 食料置き場でコウがクルミを連れ出したと勘違いしたジンが、過剰なほどの反応を示したのは、コウが人間ではないからだ。

 父も兄も獣が人の姿になれる事は知っていても、人の社会で暮らしている事は知らない。
 正体が知れれば、コウはここにいられなくなるだろう。

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