神貫いて輪廻を生きる、それを怖いと早く知れ
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ユーラシア大陸、西の果ての島国のさらに西に、三日月の形をしたもう一つの島国がある。
大陸に向いた方が綺麗な弧を描き、その弧の内側にはさらにいくつか島がある。
星のように散りばめられた諸島の中でもっとも大きい島には王宮や騎士団総本部があり、島ごとが首都の役割を果たしている。
警視庁と法廷機関は本島にあるが、その他多くの企業の核がこの島に集合している。
諸島の一つとはいえ、イングランドとそう変わらない大きさの島である。
全体が栄え、港町が賑わう島国は海洋国家として一部に存在を誇っている。
そんな街が寝静まったある夜のこと。
商船がゆらゆら揺れながら眠る湊の一角に、不意に水が割かれる音がした。
ちゃぽん。
やがってざばりと激しい音をたてて、黒い土の地面に死人のような白い手が現れた。
そこが体重をかけてもなんら問題ないと確認してから、両手をついて男が一人水面から這い上がって来る。
「ぷはっ、はあっ、はあっ」
荒い呼吸を繰り返しながら、男は足まできちんと地上に持ち上げて、纏っていたブラウンの外套を海へ放り投げた。
身軽になった男は、薄い上着を脱いで半裸になり、たっぷり水が染みたそれを雑巾のように絞った。
だばだばと大量の水が漏れ、再び軽くなったシャツを男は肩にかけて海に背中を向けた。