指輪にまつわるエトセトラ
カノジョのカレシ
高原の朝は、白い靄に包まれている。
深緑の山肌から立ちのぼる濃い霧は、まるで息吹のようだ。
"山は、生きている"
ひんやりとした湿気の中を歩きながら、そんな風に感じた。
そのまま白樺の林道を進んで行くと、ガードレール下の脇道に白い花が咲いているのを見つけた。
思わず、声が漏れる。
『……、ヤマユリだわ。』
『欲しいの?取ってきてあげるよ』
『でも、下は危ないよ。足を滑らせたら沢に転落しちゃう。』
『大丈夫だって!見てろよ…!』
そう言って、男は足を高く上げ、意気揚々とガードレールを飛び越えた。
――…10秒もしないうちに、お約束通りの悲鳴が高原の別荘地帯に響き渡ったのは言うまでもない。
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