結婚、しませんか?
記憶を消した、あの日
仕事が終わり、彼女が待つ自宅へと急ぐ。
職場から家までの距離は徒歩20分と結構近い。
彼女の好きな苺タルトでも買うて帰ろと、ケーキ屋に寄り道。
苺タルトとチョコケーキの入った箱を受け取り、店を出る。
その時、携帯が鳴った。
着信を確認すれば、彼女の兄からやった。
無我夢中で、通い慣れた病院内を走る。
真っ白で綺麗な病室の奥には、人集りが出来てた。
息を整えながら、人集りに加わる。
「大毅、楓が腕切って倒れてた。心当たりとか在るか?」
楓(ふう)のお兄さんの愛斗君(あきと)が僕に訪ねる。
「僕が出掛けるまでは、普段通りでした。昼休憩に電話した時も変わった様子は感じませんでした」
「ほな、何でこんな事なっとんねん!大毅、お前ちゃんと楓の事見とったんか?」
愛斗君の声は、静かな病室に響いた。
その声で目覚めたのか、楓が周りを見渡す。
「楓、楓!大丈夫か?誰か分かるか?」
「ん。愛斗兄ちゃん煩い、静かにして」
愛斗君は、ぎゅっと楓を抱き締める。
「ママ、パパ、愛斗兄ちゃん御免な?まさか、倒れる思わんくて。皆も来て呉れて有り難う」