手すり向こうの楽園へ
『君が死んだら、悲しいからね――』
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聖霊の出現により
平和になった世界。
人々の娯楽の一つに、絵本の物語を体験出来るアトラクションがあった。
上位聖霊ブックが運営する図書館『フォレ
スト』。そこで働く司書補の女性は、それはそれは有能であると皆が口を揃えて言う。
と、言うのも。
「はい?ヘンゼルとグレーテルがお菓子の家に飽きた?ならば、しばらくせんべいの家にしましょう。しょっぱいのに飽きたら、またお菓子の家です。
は?湖に落とした斧がなかなか見つからない?泳いで探すのだるい?ならば、湖の規模を干上がらせて縮小しましょう。北風太陽の太陽さんを派遣します。
……、タバコの吸いすぎで肺活量がなくなり、わらの小屋すらも吹き飛ばせない?こっちは北風さんを派遣してほしい?それはタバコをやめろおおおぉ!」
個性豊かな絵本の住人たちが起こす問題をテキパキと処理する女性司書補、雪木(そそぎ)。
彼女の苦悩は毎日尽きることはないが、それ以上の苦悩にして、彼女の有能さを証明する最たるモノがーー
「雪木は大変だねぇ。本のワガママなんかを聞いてさ。いっそ、全部燃やそうか。そしたら、俺のことをもっと構ってくれるよね!」
「目を輝かせながら残酷なことを言わないように!」
聖霊が一人に惚れられた女として、彼女は今日も仕事に励むのだった。
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俺の愛し方は異常だと言われた。
恋人は閉じ込めてはいけないらしい。
外に出したら危険だと言うのに。
恋人を監視し続けてはいけないらしい。
見続けていたいほど愛しい存在だと言うのに。
恋人は独占し尽くしてはいけないらしい。
俺は彼女以外の存在は要らないと言うのに。
束縛をしてはいけない。強要をしてはいけない。同じ愛を求めてはいけない。
わがままも駄目だ。甘えすぎても駄目だ。重い、鬱陶しい、面倒くさい。やがてそれらが嫌いに繋がるらしい。
俺の愛し方は異常だと、言われたんだ。
「それでも、きっと。俺は君を好きなままなんだ」
正常でなくなるほどにーー
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彼は、悪だ。
騙しもした。
盗みもした。
殺しもした。
どうしようもないほど、
すくいようがないほど、
手がつけられないほど、
責めたくなるほど、
罰したくなるほど、
殺したくなるほど、
彼は、紛れもない悪だった。
「飯、食わなきゃ死ぬぞ?」
「まずそう」
「んなことねえよ。お前が前の飯の時も『まずそう』って言うから、わざわざここいらで一番の金持ちの家襲ってきたんだ。ほら?豪華だろ?」
「まずそうです」
「美味いのになぁ」
そう言って、悪人は無理やり私の口に食事を押し込む。
私を生かすため。
曰わく、悪人の『恋』を生かすために。
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