オレンジ・ドロップ
私にとって彼を思い出せないことは、それほど悩む事ではない
毎日忙しすぎるくらい、忙しい日を送っていたから、社長の息子の事など忘れていた
am7:30に和裁所へ行く
一年目の私達は、先ず部屋の掃除から始まる
それが終わると、指慣らしに“運針”を全員で行なう
出来るだけ細かく、真っ直ぐに
今は浴衣や長襦袢を縫わせてもらえるまでに
基礎とはいえ、お客様の手に渡るものだから手抜きは許されない
その他に私達一年生は“地のし”といって反物の地の目をアイロンを使って直していく作業も行なう
これをすることで縫いやすくしたり、生地が縮みにくくなるとか?
そして、私達一年生から三年生まで2週間に1回くらい台所当番というのがある
皆の朝、昼、晩の食事の支度を任されるの
おかげで料理も少しだけ出来るようになったよ
毎日こんな感じで生活していた
日は経ち、もうすぐ夏休みを迎える
― そんなある日
私達一年生は、社長に呼ばれ事務室に足を運ぶ