現実至上主義
続いて行くもの
前日までの雨が嘘のように、晴れ渡る空の下、突然彼から…
『僕と一生を共にしてほしい』
と、伝えられた。
もちろん、嬉しかったし、結婚するなら彼って決めてた。
だから、本当なら2つ返事で受け入れたい所だけど、たった1つだけ私には譲れない事がある。
『他には何も要らないの。ただ一つだけ願い事を聞いて。この先もずっと、私にピアノを弾かせて下さい。』
飽きっぽくて、忍耐力がない私がたった1つだけ小さな頃から続けてきた、趣味。
ピアノの前に座って、鍵盤に置くと自然に動く指。
ピアノが奏でる音色が好きで、弾くことが楽しくて、ピアノさえ弾ければどんな事があっても幸せでいられるんじゃないかって思う。
伝えた彼は一瞬の間。
それこそ一秒にも満たない位の。
それに不安を感じる前に彼は――
『もちろん。この先も、きみの大好きなピアノを気の済むだけ弾くと良いよ。』
そうやって、笑顔で言うからほっとした。
時々、夢見がちで、私がそれに冷めた答えを返して、
『もっと夢のある事言えよ!』
なんて言われても、
『女はいつも現実的なのよ』
って、口癖のように言って来た。
だけど、あなたが私の事をいつも1番に考えてくれてる事もちゃんと分かってるよ。
さっきの一瞬の間はきっと、私のお願いを叶える為にこれからどうしたら良いのか考える時間。
誠実なあなたの事だから、何も考えずに口先だけの返事なんて出来なかったんでしょ?
そういう所に私は惹かれたの―――
『では改めて。これからも宜しく。』
『こちらこそ宜しくね。』
――ねぇ、気付いてる?飽きっぽい私が唯一続けて来たピアノ。
だけどね、それだけじゃない。
こんなに長く一緒に居たのはあなたが初めてなんだよ?
ピアノを弾き続ける事
あなたと一緒に居続ける事
それだけはきっとこれからもずっと続いて行く私にとってのリアル―――。
【END】