喰われにきたって、いいなよ

「ぁ、あのっ風邪だって、その、会社休んだって聞いて……」



目の前の憧れの人は、

もの凄く怖い顔で私を睨んでいる。



ーー来るんじゃなかった……



そう思って、

うつむきかけて……


でも先に視線を逸らしたのは、

彼のほうだった。



骨ばった長い指先が、


グシャ……


髪を無造作に掻きあげる。

その仕草に、



ドクっ……ん。



心臓の音が半拍ズレた。



Tシャツ姿が、

いつもより彼を幼く見せる。


乱れたままの髪……


襟元から覗く鎖骨は、

月明りに淡い陰影を浮かべていて、


なんだか儚気で……

艶っぽくて……


不謹慎だってわかってるけれど、

普段はネクタイの下に隠されて叶わない、

特別な彼を見て、


自分まで特別になった気がしてしまった。



「なに来てんの?お前」



かぁあああっ……



自惚れに顔が染まる。

あっけなく夢から覚める。



「…ご、ごめ、なさ……帰ります!」



身を翻した。

直後だった。

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