あなたの隣が就職先
永久就職先は僕の腕の中
(ああ……もう、どうしたらいいのだろうか)
望んでいた状況とはいえ、なんの障害もなしにトントン拍子でこんなおいしい状況になってしまった。
絶対にこのツケは、大きくなって跳ね返ってくるに違いない。
幸せな現実にめまいを起こしてしまいそうだ。いや、すでに起しかけている。
「先生。もうすぐできるからね。もうちょっと待っていてね」
そう言って彼女は、短いスカートを翻して僕に向かってほほ笑んだ。
その笑みは、僕にだけに向けられたもの。そう考えるだけで、身体が熱くなる。
今日は高校の卒業式。それを終わらせて、二人で向かった先は区役所だ。
前もって書いておいた婚姻届を提出すると、窓口の職員は「おめでとうございます」と事務的に笑った。
実にあっさりしたものだった。しかし、この婚姻届を書くまでが大変だった。
まずは彼女のご両親に挨拶をしに行くという段階で、胃に穴が開くほど思い悩んだ。
なんせ彼女は未来ある身だ。これから大学にだっていける学力もあるし、就職だってできる未来明るい若者だ。
それなのに僕が横から盗むみたいに彼女から輝かしい未来を取り上げてしまっていいものか。
何度も何度も考え、苦しんだ結果。結局は、もう……後戻りができないところまで来てしまっていると認識しただけ。
彼女の輝かしい未来を奪ってでも……欲しかった。それだけだった。
自分の気持ちは決まったが、彼女のご両親に挨拶をしなければならないという難関が待っている。
僕は胃薬片手に、気を引き締めた。
「先生。そんなに緊張しなくても大丈夫だよ?」
そう言って彼女は僕を励ましてくれたが、そんなのわからないだろう。
僕がもし彼女の男親だったら……間違いなく一発ぶん殴っている。そして二度と顔を見せるなと怒鳴るだろう。
そうなったとしても何度も挨拶に伺おう。そう心に決めて彼女のご両親に会ったのだ。しかし―――
「いやー、うちの娘を貰ってくれる人が先生みたいな立派な大人でよかった。なぁ、母さん」
「本当。よかったですね、お父さん」
和気藹々とした雰囲気で迎えられて、あれよあれよといった感じで婚姻届に記入と捺印をしてくれた。
あっけにとられている間に、あとは出すだけとう状態までになってしまった。
僕は反対されるとばかり思っていたから、その状況にあ然としてしまった。