記憶 ―砂漠の花―
私たちに用意された部屋は殺風景で、昨夜のシオンでの寝室とは一変し、少しカビの臭いが鼻についた。
廃墟に潜む反乱軍のアジト、
それは仕方ない。
それでも急遽用意してくれたのだろう、堅いベッドに不釣り合いの白いベッドシーツの上に腰を掛ける。
リオンさんの心遣いを感じた。
灰色の壁の向こうからは、時々彼らの笑い声が漏れて聞こえてきていた。
「ほら、アイリ。」
アズは手にした水が入ったコップを私に手渡した。
私は、なかなか言うことを効かない腕をゆっくりと伸ばし、水を受け取りながら焦点の定まらない目でアズを睨んでいる。
「…何かな?」
「むぅ~!…私、我儘になんかならないもん!」
ごくごくと水を飲み干し息を整える。
アズは静かに笑う。
「自覚ないから困るんだよね~、アイリ。」
アズは私の横に腰掛けると、先程からは想像も出来ない程の柔らかい表情で、
「良い意味の『我儘』かな。普段は蓋をしてる本音が口に出るからさ…。」
だから独り占めしたくて…、と微笑んで髪を撫でた。
なんだか、とても嬉しそうなアズはしばらく私から視線を離そうとしない。
私はこの会話については何も言えなくなってしまった。