記憶 ―砂漠の花―
四つん這いに覆い被さる形で、上から私の瞳を見るアズ。
「……なに?」
「…キス、していい?」
改めて声に出された言葉に、
その「キス」という単語の意味の重みに、相手が誰でもない「アズ」なんだという事に、
覚めかけていた酔いは何処かへ。
私は一気に平常心へと戻った。
「………。」
「…沈黙は、肯定と受け止めますよ?」
どんどんと…
アズの熱っぽいその瞳が降りてくる。
唇が重なるか、重ならないかという至近距離で、アズの胸元にある私の両手に力が入った。
それを感じると、
ピタっと、アズは停止した。
「……ストップ?」
ドキドキと早まる鼓動を制して、やっとの思いで、
「……はい。」
と呟いた。
「酔い、覚めたんだ?」
元の腕枕の状態に戻ったアズの問いに、首だけ動かせて返答をする。
平常心に戻った今となっては、この腕枕の状態すら恥ずかしい私。
「アイリの嫌がる事はしません。…惜しかったけど。」
急に大人しくなった私をなだめるように、もう1つの手で髪を撫でる。
「さっき、水なんか飲ませんじゃなかった…」
ボソッと呟いたアズの胸に、無言で二度目の平手打ちを喰らわせた。