記憶 ―砂漠の花―
小川を流れる水の音。
虫たちの声。
木々のざわめき…
緑色の湿った柔らかな風が、
風景を揺らしながら、私たちの耳元に音を届ける。
全て、本物なの?
…本当に、ここは地下なの?
感動で言葉が出てこないという表現は、今この為に在る。
全員、ただただこの世界に魅せられて、立ち尽くしていた。
まるで、夢。
そう、自分が夢の中に迷い込んだ様な感覚だ。
この幻想的な異世界のような街を、いくら眺めていても飽きなかっただろうが、先生がこれが現実なのだという事を私たちに示す。
「ようこそ、我らの街『サザエル』へ…!」
先生は、そう静かに片手を広げた。
「…サザエル?国の名を街につけたのですか?」
アズが聞くと先生が街へと足を進めながら、この光景を愛しそうに見つめた。
「サザエルは大分、軍事国家として開発されて、風情が失われてしまった。本来のサザエルはこうでなきゃいけない。そういう気持ちで街を作り、そして名付けた…。」
先生に続き、私たちは未だ夢の中にいるような感覚に囚われたまま、辺りをゆっくりと眺めながら歩を進める。