記憶 ―砂漠の花―

耳元で、タビが騒ぐ。

『ちょっとぉ~、アタシに先にお話させてくださりゅ~?』

髪の毛をカシカシと、小さい手で必死に私に訴えかける。


『アイリちゃん、お願いよぉ~!大事なお話ってゆったでしょお?』

どうにも、タビのお願いを断る事は忍びなくて、私は先生に話し掛けた。


「重大な話なのは分かってるんだけど…、先生。タビがさっきからご立腹なのよ、『解除』してって!」

『そうなのよ、そうなのよ~!』

有り難う、とタビが私の顔に擦りつく。
まだ幼いふわふわの毛がくすぐったい。


「おぉ…タビ、すまん。うっかりしていた。寂しかったな。…おいで?」

体から一瞬の魔力を放ち、いとも簡単に先生は黒髪に青い瞳へと変貌する。


タビは私の肩の上で白い手に力を込めると、またも軽やかに先生の元へと飛び移る。


『ご主人様、アタシ怒りゅわよ!?大事なお話がありゅのに…!』

タビは先生の顔に、肉球をのせて睨んでいた。


「すまん、すまん。サイル島の偵察ご苦労様、タビ。さぁ、アランくんの話の前に、偵察の報告を皆も一緒に聞いてもらおう。」

どうするのかしら、と見ていると、先生はタビを膝に乗せると、ゆっくりと魔力を込めて撫でた。

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