記憶 ―砂漠の花―
「アイリ…少し休んでからにするか?本当に大丈夫か…?」
今すぐにでも駆け出して行きたいだろうに、アズは心から私を心配そうに声を掛けた。
そっと私の頭に触れるアズの手が、私に安堵感を与える。
だいじょうぶ…
大丈夫…
私は…、私…。
「平気っ!行こう、アズ!」
代わりに私が駆け出した。
談話室を出て、
やはり石畳の長い廊下を右へ、左へ…
外壁側の小さな窓から、微かな太陽が私たちの行き先を照らした。
途中、ぽつりぽつりと使用人や兵士たちが部屋の隅で固まる姿が見える。
身を小さく丸め、何やら険しい表情で話している様が伺える。
先程の給事たちから話は広まっているのだろう。
意識を集中すれば聞こえてくる…
『部屋から出てすぐの所で聞いていたんだから…』
『まさかっ』
『でもリザ様が…』
やはり半信半疑な様子ではあるが、城に残る先生が私たちと別行動の間に動くだろう。
見ず知らずの私たちの出る幕じゃない。
やがて、一つの扉の前でキースが足を止めた。
焦げ茶色の重そうな扉だ。