記憶 ―砂漠の花―
いつもの様に、花壇に水を与えようと手をかざして、私は一拍止まる。
――ヒヒィン…
今日もまた、一頭の馬が柵から頭を出し、私に鳴き掛けた。
『また、しかめ面してるぞ…』
白い毛並みの馬は、この馬小屋には一頭しかいない。
「…ラオウ、うるさいな。あっち行っててよ!」
『バカめ、元々ここは俺様の縄張りだ!』
ラオウは普段と何一つ変わらない偉そうな態度で、その場で足踏みした。
ちなみに、私を優しく慰めてくれたのは、断じてラオウではない。
『お前、未だに魔力を使う時に躊躇って変な顔するのな?もっと堂々と使ったらどうだ!?』
「…うるさいなぁ。」
『成長しねぇな。』
顔だけを向けていた私の体が、ムッとラオウに向けて角度を変える。
『…もぅ!また喧嘩してるの~!?ラオウ、僕のアイリを苛めないでよっ!』
茶色の毛並みをした馬がそう鳴いて、自分の体をラオウと柵の間に割り込ませた。
ラオウが驚いて一歩下がる。
『レン、お前もアイリに何とか言ってやれよ。』