記憶 ―砂漠の花―
私たちの手が止まり、父上の顔に視線が集まる。
父上は、私を見ていた。
「アイリ…」
やはり私か、と思いながらも白々しく返事をする。
「お前に見合いを…」
「お見合いならお断りします。」
父上の言葉を遮ってキッパリと言い放つ。
アズの視線を感じた。
父上は大きく溜め息をついた。
「なぜだ…見合いが嫌と言うならば、好きな奴の一人や二人はいるのだろう?…いない、と言うし…。私とカルラなど早く結婚したくて、したくて…」
父上と亡くなったカルラ母上の恋愛話は、幼い頃から聞いている。
砂漠で黒ヒョウに襲われかけた父上を、母上が助けたのが二人の出会いだと聞き、アズの母上はどんなに勇ましい方だったんだろうと、今でも不思議に思っている。
「特に、お前にはウィッチの血を残す為にも、早く子を産み、血を増やしてほしいというのに…あぁ分からん。」
「父上、それは聞き飽きましたッ。」
私がふて腐れてそう言うと、アズは隣りで笑っているし、父上は私を真似て頬を膨らませてみせた。
「アズ!お前もだ。もうじきに即位式も考えている。お前もいないのか、相手は!」
「ご想像におまかせします。」