記憶 ―砂漠の花―
父上は冷静なアズに、ムッと顔をしかめる。
「…アイリ、…お前知っているか…?」
そう片手を口元に添え、身を乗り出し、小声で私に聞いてきたのだ。
「あははっ、多分いないと思う~!」
手をひらひら、笑いながらそう答えると、横からアズの肩が私を攻撃する。
「アズ、痛いぃ~…」
「お前だって人の事笑えないだろ!?」
「私はいいの!」
ぎゃいぎゃいと二人で騒いでいると、父上は呆れて言った。
「お前たちは、いつまで経っても子供だなぁ…」
ふふっと父上は笑うと、手をパンパンと二回叩き、私たちの注目を再び集めた。
「さて、ここからは真剣な話なんだが…」
私とアズはピタッと動きを止め、互いに顔を見合わせた。
ここからが本題…?
「実は先日。ある行商人から、気になる情報を得た。かつての敵国サザエルに、元王妃だと噂されている女がいたと言うのだ…」
父上は自分の感情を押さえるかのように、ゆっくりと話した。
「あくまで噂だ。ただサザエルという事だけに、可能性はなくはない。」
急な展開にポカンと口を開ける私の横で、アズは興奮気味に父上の話に食い付いていた。
「しかしっ!母上は亡くなったと…!」