記憶 ―砂漠の花―
父上は平静を保ち、深く頷く。
「アズ、当時カルラと幼い妹アイリは戦を避けるため別の街にいた…」
「聞いています…」
「安全と思われていたその街も結局、巻き込まれ『全滅』という情報だけだ。あの状況下では、直接遺体を確認出来たわけでもない。」
…そう。
しかし、生きていれば連絡がある、帰ってくる、と信じて待ったわずかな希望も、数年後には諦めるしかなくなっていた。
同時期に私も母を失った。
同じ悲しみの記憶。
「だがな、サザエルに行って確認したいにも、一国の王が噂話だけでは動けんのだ。さらに、サザエルとなれば国民の反発も大きいだろう。そこで、だ…」
「はい、俺が行きます!」
「う…うむ、頼む!」
アズは当時8歳。
母上の記憶も、思い出もあるだろう。
その母上が生きているかもしれない、と聞けば返事は一つと決まっていた。
アズは、安易に返事をしたわけではない。
これは大変な事だ…。
私もそうだが、もちろんアズも、このラルファから外の国へ出た事がない。
容易な旅ではない事は、私以上に分かっているはずだった。
それでも、一瞬で彼をここまで決心させる本物の家族愛に、少なからず嫉妬してしまう。