記憶 ―砂漠の花―
4・目撃者 狼 キース
4・目撃者 狼 キース
アズは日が沈みかけた頃、やっとカオスの泉に歩いて到着した。
「耳が痛い」と疲れてヘロヘロになっているアズを見て、可笑しくて私の機嫌も直ってしまった。
「街の皆は、カオスの泉には白い狼がいて襲われるって。危険だから行くなって。」
「まぁ父上はお前が安全だって知っていたけどな…。会った事あるのか?キース。」
アズは、私の横でうつ伏せで寝ているキースを撫でながら聞いた。
キースはカオスの泉にたまに現れる白い狼だ。
『まぁ…昔ちょっとな…』
「何それ…」
「何だって?キース。」
私にそう問うアズ。
「昔ちょっとな、だって。」
「また秘密かよ。」
アズが泉のほとりに立つ。
岩の間から抜ける風で砂ヤシの木々が揺れた。
「明日ラルファを発つんだな…」
「うん。キースともしばらくお別れだね。」
『あぁ…』
キースは体はそのままの上目使いで、少し悲しそうにそう鳴いた。
初めて出る外の世界。
どんな困難が待っているか分からない。
昼間エミリが言っていたように身分を隠して旅する為に、兵士もつけず本当に二人きりの旅になる。