記憶 ―砂漠の花―
私がろくに眠れなくても、関係なく朝はやって来る。
「アズ、アイリ!頼んだぞ。目的を果たし、無事に帰ってこい!」
父上は、私たちの肩を力強く抱いてそう告げた。
アズは勿論だ、と自信たっぷりに答える。
私は無言で頷いた。
私は簡単になら人の感情を読み取る事が出来る。
嬉しいのか、悲しいのか、という程度だが。
父上はもちろんアズも期待している。
必ず見つかると…。
その瞳は希望に満ちていた。
「行ってこい!」
父上に見送られた城から街への石畳の道。
砂漠へと続く、市場が立ち並ぶ昨日と同じ黄色の砂利道。
私たちを乗せた馬の周りに、人々が集まり声を掛けていく。
「お気をつけて!」
「いってらっしゃい!」
「元気に帰ってくるんだよ!」
「有り難う」と私は笑顔で不安を隠し、皆に手を振って答える。
「アズ様!お気を付けて!」
耳につく甲高い声の主と目が合った。
はっきりと心を読めるわけではないが、エミリの目が、
『見つける気ないんでしょ?』
と言っている気がして思わず目を伏せた。
表向きの目的は、
『社会勉強の為』。
エミリが本当の目的を知るはずがない。
そして、私たちは街を出た。