記憶 ―砂漠の花―
『何ー?ねぇ、何したのぉ?』
「うるさいなっ。何でもないってば。早く走って!」
『うー…。僕も行けば良かったなぁ。でも、あそこ入れないし、行っても外で待っててつまんないし…』
「…もぅ!いいから!」
『ぶー…』
行き先に視線を戻すと、
広大な砂漠の先に岩場が見えた。
「……?」
そこには、
人がぽつりと立っていた。
私たちは、この砂漠に慣れ親しんでいる為か、視力が良い。
視界の開けた砂漠の地に住む人間にとって、視力が良い事は珍しくはない。
未だ遠く小さいその男も、明らかにこちらに向かって手を振っていた。
「アイリ、お前知ってる奴か?」
この様子ではアズも知らない人のよう。
私も、もちろん首を横に振る。
「…こんな所で…。道にでも迷ったのかなぁ~、あの人。」
「んー…、そうは見えないんだけどな。」
カオスの泉から未だそう遠くはない。
このラルファに暮らす人々にとって、砂漠を渡る際に目印である泉とこの岩場の位置関係は理解しているはずだった。
私たちは首を傾げる。