記憶 ―砂漠の花―
だけど、考えてみれば私たちはキースの事を何一つ知らない。
人を襲わない、
むしろ守ってくれる。
いつも一匹で、群れない。
普通の狼と違う。
「そうは言ってもな、キース!俺はアイリと違って言葉が通じるのは初めてなんだ!言いたい事も聞きたい事も、山ほどあるんだからなっ!」
ラオウを走らせながらそう叫ぶアズに、キースはクスッと笑った。
「あぁ…相談したい事もな…?」
「…っ、…うるさいな!」
「くっくっくっ…図星だろう?」
アズはムッと赤くなって、ラオウの足を早めた。
私はアズとラオウが少し離れたのを見計らって、
「心配して来てくれたんでしょ?ありがとね?」
そう耳打ちした。
キースは私の髪をくしゃくしゃと強く撫でた。
「それだけが理由じゃないけどな…」
「え…?」
キースの視線が私から離れた。
「日が落ちてきたな…」
サァ…と舞う砂煙の向こうで、
西の砂漠には、大きな太陽が沈んでいく。
東の空には、もう夜が訪れていた。
「おーい、オアシスがあるぞ!」
少し遠くでアズが叫んだ。
『…やっ…と休める…』
疲れきったレンが、
ヒヒィン…と弱々しく鳴いた。