記憶 ―砂漠の花―
5・海辺の国 シオン
5・海辺の国 シオン
ラオウとレンを走らせる事、丸二日。
広大な砂漠はいつの間にか草木が増え、サバンナへと姿を変えていた。
徐々に水が豊かになっていくからだ。
運良く獰猛な獣に遭う事もなく、順調な旅路。
三日目には大陸の端、海辺にあるシオンの街へと足を踏み入れていた。
初めて訪れる他国に、
初めて目にする広い海…。
私とアズは緊張の面持ちで、潮風に吹かれながら賑やかな街の中を進む。
ラルファとは違う、湿った風の匂い。
大きな水の音。
あれが、波の音なのね…。
そんな些細な一つ一つに感動してしまう。
「…雰囲気は違うけど、市場が賑やかなのは、どの国も変わらないな?」
ラオウの綱を引きながら、私の横でアズが言った。
「…うん。シオンには結構ウィッチもいるんだね…?」
なるべく落ち着いた様子を装いつつ、それでも瞳はきょろきょろと周囲を見渡してしまう。
私が通っても目立たない。
道を行き交う人々の髪の色に、少し口元がゆるんだ。
そんな私たちをよそに、レンを連れたキースは脇目もふらず、先陣を切って城を目指してずんずんと進んでいく。
足早なキースを見失いそうになりながら、私たちは後に続いた。