記憶 ―砂漠の花―
一見、アズの問い掛けに答えたかの様に聞こえるところだが…
実際は、こう鳴いた。
『…アイリ、お前やっぱりバカだろ。』
「アズー!ラオウが私にまたバカって言ったぁ!!なんでアンタにまでそんな事言われなきゃならないのよ!」
ラオウは、それはそれは偉そうに冷やかに私を見下ろしたまま、私にしか伝わらない言葉を続けた。
『お前を探す為にアズをここまで乗せてきたのは俺だ!』
「うっ…」
『――謝れっ。』
「うー…ごめんなさい。」
馬に蹴られるのは度々は御免なので、悔しいけれど素直に謝る。
本気じゃない蹴りとはいえ、相手は体の大きな馬。
痛いものは痛い。
この様子を横で見ていたアズは不思議そうに、
「…ラオウには謝っても俺には謝んないんだな…」
とポツリと言った。
「…ごめんなさい、お兄様。」
アズの声はラオウに届く。
ラオウの声はアズには届かない。
勿論、普通の人にはそれが当然の事だ。
私には、ウィッチの血が流れているらしい。
兄、アズと私の血は違う。
人間と、ウィッチ。
ウィッチは「魔力」を持つ人間。
その魔力は「血」に宿る。