記憶 ―砂漠の花―
物心がついた頃から、私には動物たちの声が聞こえていた。
ウィッチという人種にとっては当たり前の事らしいけれど、
『どうして、私にだけ…?』
幼い頃はその自然な事象を受け入れられずにいた。
「…まったく、困った妹だ。お前は本当にこの泉が好きだなぁ。」
「思い出の場所だからねぇ。」
呆れながらのアズの言葉に、私は笑顔を向けて見上げる。
アズは昔を懐かしむ様に、ふっと目を細めた。
「あぁ、俺がお前を見つけたんだよな。」
「そう。アズが8歳で私が5歳の時だね。」
このカオスの泉は小さなオアシスで、街から少し離れた場所にある。
高くそびえ立つ岩たち、岩の壁に囲まれた、まるでここだけ別世界の様な緑豊かなオアシス。
オアシスに入る岩の入り口も、やっと人が一人通れる程に狭く、戦時中は人々の避難場所となっていた。
オアシスの外は、殺伐とした砂だらけの戦地。
当時、ここは皆に安らぎを与える大切な場所だった。
そして…、
私は、ここでアズに拾われた。
私の運命が変わった場所。
私たちは外にラオウを残して、泉へ続く岩の隙間へと足を進めた。