記憶 ―砂漠の花―
後方の船から、怒鳴る声だけが海上を響いた。
「早く漕げ~っ!!のろのろしてるんじゃねぇっ!!」
手こぎの舟には、ぼろぼろの服を着た人々。
体も肉体労働をやらされたのか、全体的に泥で黒ずんでいるように見える。
まるで覇気はなく、誰もが無表情に近い。
しかし、後方の船から聞こえる声の主に対しては、明らかに恐怖を感じているようだった。
船着き場に前の五隻が着くと、後方の船から制服らしき青い上下を着た男が姿を現した。
「全員降りろぉ!明日も一人でも遅れやがったら全員容赦しねぇからなっ!分かったらさっさと降りろ!」
人々は言われるまま、ビクビクしながら言葉もなく足早に舟を後に南側の街に入っていった。
「全く可愛いげがねぇっ!」
青服の男は不機嫌そうに舌打ちをすると、船から宙へと浮いた。
「…ウィッチか?」
アズの小声の質問に、隣で小さく頷いた。
黒髪に青い瞳…。
体から放つ、魔力の色は白。
白い力は、私自身も初めて目にする。
男は自分の乗ってきた船はそのままに、単身船着き場の近くまで海の上を浮遊して行く。
宙に浮いたまま、手から怪しげな白い光を五隻の舟に放った。