記憶 ―砂漠の花―
誰にでも…
思い出したくない過去があるだろう。
私にも、ある。
私が覚えている限りで、
一番古い過去。
5歳の時――、
どこなのかは分からない。
住んでいただろう街が戦場になっていた。
家の一軒一軒に火が放たれ、
焼かれ…、
空は暗く灰色。
炎の叫びが聞こえた。
人々の悲鳴が、
兵士の笑い声が、
遠くで、近くで聞こえた。
剣と剣が重なりあう音が耳から離れない。
人々の泣き叫ぶ声も止まない。
事切れた人々は、道端で、建物の中で、物のように放置されていた。
そんな中、私は母であろう人物に手を引かれ、時には抱きかかえられ逃げていた。
気が付くと街からは出ていて、
そこは、
砂漠の真ん中で…。
空がオレンジ色になり体が冷え始めた頃だったのを覚えている。
母は、
私の横に倒れていた――。
揺すった母の背中。
私の手についた赤い血――
逃げなさい、という母の言葉。
泣きじゃくる幼い私――
私と母を取り囲む兵士たち、
気味の悪い笑み……
『やれっ!』
馬に股がった人影が叫んだ。
私は首根っこを捕まれ、
宙に浮き…
そして、
鋭く光る剣で、
私は、刺された――