記憶 ―砂漠の花―
今から約30年前、サザエル国王が病に倒れ、亡くなった。
それまでは魔術の栄えた文明国として名高く、治安も良く、人々も平穏に誇りを持った暮らしをしていた。
王女時代のリフィルもまた、今の彼女が想像もつかない程、文才に長けた大人しい性格の国民に愛される人柄だったのだ。
そうリオンさんが語る。
横にいるキースに確かめるように視線を送ると、表情だけを動かせて私たちに肯定を示した。
国王が亡くなり、リフィルが女王となり、国も彼女自身も急変した。
少し前にキースが話してくれた内容とほぼ同じ。
彼が真実を語っているのだと、私たちは確信する。
彼女リフィルが急変した理由として、浮かび上がる一つの黒い影。
「一人のウィッチの男が、当時から王家に出入りしている。」
「…ウィッチの男?」
キースは自分の記憶を巻き戻し、該当する人物を探っていた。
しかし該当する怪しい人物は思い当たらないらしく首を捻る。
「表面上は、人柄も容姿も良く、少し控えめな彼を誰もが信頼していたよ。」
リオンは自分のカップに酒を手酌しながら続けた。